第10話「我が友、亜空間に散る」 
首藤剛志脚本 佐藤元コンテ 二階堂主水演出 
1980/9/1放送


アルデバロンの攻撃目標を次々に言い当てる謎の怪電波。
発信元はガットラーを憎み、地球への亡命を願うマリンの旧友、フリックだった。
フリックと行動を共にするマリンだったが亜空間のひずみに巻き込まれ、
身動きが取れなくなってしまう。
全てはフリックの裏切りを察知したアフロディアの仕掛けた罠だったのだ。
フリックは胸の内を隠しながらマリンとBFSに未来を託し、散っていくのだった。


1クール終了間際、脇の話がだだっと続いた後「これぞ、バルディオス!」的なシブイお話が入ってきます。
全編を流れる哀愁とでも言うような悲しげなトーン。
私の中で「マリン、命の旅」がこれほど似合うのは、この10話の他には32話「破滅への序曲(前編)」くらいな物ですね。
どっちもどーしようも無く救いがたい。

DVDーBOXの解説の中で広川監督が
「マリンをどこまで窮地に陥れるかということについては心底悩みましたね。」
とおっしゃっているのですが、10話のマリン・・・・かなり辛いです。
この話のマリンは旧友フリックには昔を盾に挑発されてしまうし、
仲間であるはずの雷太達にも心情を取り合ってもらえず、と
二重苦のような立場に立たされてしまいます。
これまでの流れでマリンはすっかりBFSの仲間入りをしていたようにも見えたんですけどね。
土壇場に立たされてしまうと本性が出ると言うか、なんと言うか・・・
脇の話でいくら和んだように描かれていてもマリンを取り巻く環境はやっぱりこんなモンなんでしょう。
皆が本当に助け合い、仲間になるのは第18話「裏切りと暗殺の旅路・後編」以降のこと・・
今しばらく、マリンの苦悩は続きます。

10話ってストーリー自体はそれほど目新しい物では無いと思うんです。
ちょっと「お約束」入っちゃってるような〜
ただ見せ方が上手いと思う。
絵とお話の取り合わせの妙、とでも言うんですかね。
やっぱり悲壮系の15話「偽りの平和会議」も10話と同じ首藤脚本&上條作監。
そんな事言ったら前記の32話も両氏が組んだ話だった。
首藤さんの書いた話でも作画・スタジオZ5担当の29話「地球氷河期作戦」あたりだと、
悲壮さよりも綺麗さの方が目に付いちゃうんですよね。
上條さんの絵が綺麗じゃないって言ってるんじゃないですよ。
良い意味で荒い感じ。
何か他のことを感じる余裕もなく、否応なしにお話に巻き込まれていってしまう・・そんな感じ。
84年発行の同人誌の中で上條さんが「荒々しい作品には荒々しい線と絵が必要。」
っておっしゃってるんです。
これが今風の絵だったら受ける印象も随分違うんじゃないでしょうか?
10話の魅力ってそこら辺にあるような気がします。
追いつめられた3人とフリックの息詰まるような応酬は、
塩沢さん始め声優陣の熱演も相まって悲壮さ100倍!
一気に幻想的とも言える美しいラストシーンに突入していきます。

私は前半ではこのお話が一番好きです。
「どうだ!どうだ!どうだーーー!!」って迫ってくるようで、何度見てもスッと引き込まれてしまいます。
妙に老けた学生時代のマリンとか、やられメカのシルバーシャークとか、
色々目に付いちゃうのも確かですけど、
トータルでみたら10話の持つ強さの方に軍配が上がると思います。
もしも単体DVDの(1)だけ買って、
あまりの絵のひどさ加減(おい)に次を買うのをためらってる人がいたら
騙されたと思って、この10話の入ってる(2)も買ってみて欲しい。
最近では無いようなこの熱くて痛い話を十二分に楽しんで欲しい。
そんなよけいな事まで考えてしまうほど気合いの入った1本です。


第11話「情け無用の戒律」 
酒井あきよし脚本 田中修司コンテ 田中修司演出 
1980/9/8放送


アフロディアは戦隊強化のため鉄の戒律を作り
彼女を寵愛するガットラーは反発する部下を見せしめに処刑し、戒律を徹底させた。
だが、アフロディアは作戦には勝利した物のマリンとの一騎打ちに敗れたあげく命を救われてしまう。
帰還したアフロディアは作戦成功を労うガットラーに自らの戒律違反を告げることは出来なかった。


第11話。前半のキーになるお話です。
さらっと描かれているので初めて見る方は見逃してしまうと思いますが「地球=Sー1星」の最初の伏線が登場します。
全話通してみると解るのですが、こういった伏線が結構至る所に描かれているんですね。
DVDで見返すまでは1話1話の印象を「作りが荒い」みたいに思っていたので
ストーリー全体の構成はしっかりしていたんだなあ・・・とちょっと意外でした。

11話は人間関係のおさらい&マリン、アフロディアの愛憎劇の始まり・・的なお話です。
BFSでは孤立気味のマリン、マリンを気遣うジェミー、チームの輪を最優先させる月影、と言ったところ。
一方のアルデバロンでは8話のガロ、10話のフリックがそうであった様に、必ずしも一枚岩ではない様子も浮き彫りになってきます。
あからさまに美貌のナンバー2だけを庇護寵愛する指導者。
どうなんでしょうねえ、こんな人が上司だったら・・・・笑

ガットラーってキャラ的には「独裁者だがアフロディアにはちょっと・・・」
みたいな描かれ方なんだと思います。
豪華本の中でガットラー役の青野武さんも
「(アフロディアと)2人っきりになると男が女に対する感情に切り替わってしまう。」
とおっしゃってます。
ただねえ・・・
ああいった態度をとり続けていれば独裁者であるだけに
周囲の反感はガットラーではなく、アフロディアに集中しちゃうと思うんですよね。
あの女さえいなければ〜みたいな。
アフロディアが周りを黙らせるだけのいい仕事をしてれば問題ないんでしょうけど、
あーんなバカな戒律作っちゃうし。
(しかもガットラーてば認めるどころか推奨してますよね!)
結局ガットラーってアフロディアをスケープゴートにして自分のしたい事してるだけなんですかねえ?
イヤなオヤジ〜

38歳のイヤなオヤジよりは美貌の20歳に心惹かれてしまうのは
迷える25歳的には致し方なし・・かなあ??
可愛さ余って憎さなんとか・・って言葉もあるように
愛情も憎しみも相手に強い感情を抱くって点では同じですよね。
憎い(しかもカッコイイ)男にあんな形で助けられたら意識しまくるっちゅーの。
きっとアルゴルに戻っても「なぜ助けたんだろう・・」
なーんて、今までとは別の角度でマリンのことを考えたり顔が浮かんだりしちゃったんじゃないかなー。
マリンがここら辺を解ってやっていたら役者が上だけど、どうやら違う。
当時の同人誌のインタビューで「なぜマリンはアフロディアを撃たないのか?」
の問いに対して広川監督がおっしゃるには
「撃った後の自分が恐い。それにこれ以上悩みたくない。」なんです。
マリンはあくまでも天然でやってるわけですよ、きっと。

このマリンがアフロディアを助ける問題のシーンですが、
決闘していて手元を撃たれたとたん、崖から落ちるか?
って突っ込みはさておいて、この描き方は上手いと思いました。
2人がはっきりと目に見える形で上下の関係に置かれちゃったんですね。
今までとはまったく位置関係が逆転しちゃったわけですよ。
やっぱりマリンは追われる立場で軍事的にもアフロディア(アルデバロン)の方が優位だった。
なのに今、この場の生殺与奪権を握っているのは自分だ・・・
そう思ったら助けちゃうのがマリンの甘さであり、まっとうさなんでしょうね。
一つ前の10話でだってあんな惨い目にあって「この俺に又一つ、復讐のためを植え付けた。」
なんて言っていたのにそれでも仕返しできないのね・・マリン。

少し先の話になるんですが21話「甦った悪魔(後編)」で敵
(ここでは裏切った地球人)を殺したアフロディアに対して
「何も殺さなくても・・・」って言ってるんです。
マリン、甘いっ!!アンタ甘過ぎっ!やらなきゃやられるんだよーーーー!!
やっぱりマリンは殺しが出来る人間じゃあない。
フツーに育った善良な青年なんですよ。
アフロディアといると思わずその素の部分が出てしまうのではないかと睨んでいます。
(中道的に考えたら捕虜にするのが最善だと思うんですけどね)

話戻ってガットラー&アフロディア。
ラストでアフロディアは自分の戒律違反をうち明けられなかった。
これはガットラーへの甘えともとれるし、自分への甘えともとれます。
豪華本の塩沢さんとの対談の中で神保さんがこの件ついて
「(甘えもあるのだろうが)Sー1星のためにも死ねないって信念があった。」とおっしゃってます。
なるへそ。
ただここで疑問が一つ。
素直に言ったところで「そんじゃ、お前も死刑だな。」となったかどうかは非常にアヤシイ。
むしろ「何を言ってるんだ、お前は特別だ。可愛い奴・・・」
ってなるのがオチなんじゃないでしょうか?
そこまで言わせられないし。(言われたくないし〜)
そんな事も頭に浮かびつつ、色々自分に言い訳して結局ダンマリを決め込んでしまった、と。

アフロディアはずるくてイヤな女だけど、見方を変えればどこか抜けてて可愛い人なんですよね。
いいじゃん、命助けられても。
死なずにすんでラッキーじゃん?
誰も見てないんだから戒律違反なんて問題ナシだ!(実際こう思ってる兵士は多いと思われ・・・)
そうとは考えられずにモンモンと悩むところがバカ正直と言おうか、意地っ張りと言おうか・・・

11話はそんな風にキャラの内面を推測したりと、「読んで」面白い話です。
ビュジュアル的には所々作画がアレなんでちょっと辛い物があります・・・・
まあ、そう言ったところは笑い飛ばして見ていただけると嬉しいかな。
30分のテレビアニメではどうやったって表現できる箇所は限られてきちゃいますから
その辺は差し引いて、ドラマ部分だけを楽しめばかなり良い線行ってる話なんじゃないかと思います。


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(2003年3月)