TVは軍人 映画は女 (こんなに違うTVと劇場版2) 
TVで34話かけて描いてきた人物像も2時間の映画となると分かりやすく 単純化されています。
人物のある一面がクローズアップされた形で
マリンはヒーロー アフロディアは女 これに尽きると思います。

初っ端、ミラン死亡後のアフロディアの描き方は顕著です。
劇場版は運命のすれ違い、美女アフロディアが強調された演出、レイアウトとなっています。

 劇場版 

画像引用Pioneer DVD
劇場版「宇宙戦士バルディオス」
葦プロダクション 著作 
映画がすごく分かりやすいので映画から紹介します。

ミラン死後アフロディアがミランの名を叫びながら
研究室に飛び込んできます。
画面中央奥が研究所入り口で
そのまままっすぐ ミランが横たわっている
左奥に走っていきます。

画面右ではミランに撃たれ重傷のレイガンを抱えたマリン。
互いに肉親に気を取られ背中合わせです。
レイガン博士とミランがこれだけ離れた位置に居るのは
前後を考えるとおかしいんですが・・

画像引用Pioneer DVD
劇場版「宇宙戦士バルディオス」
葦プロダクション 著作 
そのままミランの亡骸にひざまずき生死の確認をします。
マリンとは背中合わせのままです。

研究所入り口がデカすぎる気がしないでもないですが
燃え盛る炎で戦場と化していることが分かります。
(炎は背景ではなく動いています)

画像引用Pioneer DVD
劇場版「宇宙戦士バルディオス」
葦プロダクション 著作 
ミランの死を確認したアフロは悲しみに頭を垂れます。
ご丁寧に二人を囲むモブ兵士も頭を下げ
(全員一斉にやるからちょっとコントみたい)
追悼の意を表しています。

映画でアフロ役を務めた戸田恵子さんも
悲しみに暮れる演技をしています。
マリンとは背中合わせのままです。

画像引用Pioneer DVD
劇場版「宇宙戦士バルディオス」
葦プロダクション 著作 
左右に高さの違う肩のラインに
アフロの悲しみ、女らしさが表現されていると思います。

「たった一人の弟を殺したのは・・・・」のセリフと共に
ゆっくり振り返りセリフ
「お前か!」
振り返り マリンと対面時は戦士の顔になっています。
アフロディアの悲しみが怒りと憎しみに変わる瞬間です。

スローで振り返る途中途中
映画冒頭の灯台のアフロディアのカットが挿入され
マリンに(視聴者に)2人が同一人物である事が明かされます。

TVの二人も研究所襲撃の前に会っていてそれが初対面です。
後の伏線になってはいるんですが、生活の中でフツーに会ってるのでドラマティックではないんですね。
2時間の枠の中で2人の関係を描かなければいけないので掴みを強くする必要があったのでしょう。

灯台のシーンに関して映画総監督の鳥海永行さんが
徳間書店アニメージュ1981年12月号でこのように発言されています。

「テレビではなんとなく、あっさりと出会ってしまったので、この出会いの部分を冒頭に置き、
ドラマティックなスタートにしました。」

「灯台でのふたりの運命的な出会いは、テレビ・シリーズにはなかったところです。
この出会いの劇的な効果は、脚本の酒井さんにお願いして念入りに書いてもらった部分です。
(中略)
もちろん全面的に描き起こしました。」

初っ端で「運命の二人のラブロマン」を予感させ
続くこの研究所で「巡り合わせの悲劇」を置き、流れを作っておきたかったのではないかと思います、

灯台シーンもいのまたさんの新作カットなのですが
マリン目線でミステリアスな美しさが描かれており
(主観はマリンにありアフロはマリンをスルーしている)
この研究所でもアフロディアの美しさを際立たせた画面になっています。
(ここで流れる映画新作の羽田さんの劇伴がまた良いのです)

TVもそうなんですがマリンがアフロディアを助ける(惹かれる)理由に
アフロが美人!と言う身もふたもない物があったりします・・・
父の仇や憎しみの対象はアルデバロン全体とガットラ―であり
マリンにとってアフロディアを意識する理由は美人のアフロが自分を憎むから
&弟を殺した負い目 です。
背を向けていたアフロディアがふり返る演技をつける事で
灯台の出会いと悲劇的な再開を印象づける演出なのだと思います。

うん、それは分かる。
分かるんだけどTVからバルディオスを見ているファンはこのシーン
綺麗だけど違和感ありまくりなんですよー
灯台と研究所だけ取り上げたら綺麗でホントに良いシーンなんですが
アフロディアの人物像から見てみると、それでいいのか?の疑問がわきます。

たった一人の弟が倒れていて生死不明(多分、死んでる)
それは悲しいでしょう。涙声にもなるでしょう。
アフロディアのマリンへの憎しみを見せるために
ミラン喪失の悲しみをストレートに描けば簡単なのは分かるんだけど・・・・・

TVはここをどう描いているのか見てみましょう。

TV版

画像引用Pioneer DVD
宇宙戦士バルディオス1話「孤独の追跡者」 
葦プロダクション 著作 
研究所入り口は画面外の右側。
入ってすぐの位置にミランの亡骸。

銃を構え「動くな」と威嚇しながら入室したアフロディアは
ミランの亡骸に歩み寄り入室時の姿勢を保ったまま
生死の確認をしようとします。

システムを背にしているマリンは
アフロディアが入室した時点で対面しています。 

画像引用Pioneer DVD
宇宙戦士バルディオス1話「孤独の追跡者」 
葦プロダクション 著作 
顔も体もマリンに向けたまま 銃もマリンに向けたまま
指先でミランの体に触れ死亡を確認。
戦闘態勢は崩していません。

頭の先から足の裏まで体幹の整った画です。
ゆっくりと腰を落とす動きで(しかも所作は女性)
難しい作画だと思います。
田中保さん?斎藤格さん??

時間にすると短いのですが情報量が多い。
この画像でも場の緊張感が伝わるかと思います。
 
画像引用Pioneer DVD
宇宙戦士バルディオス1話「孤独の追跡者」 
葦プロダクション 著作 
ミランの死を悟ったアフロディアはほんの一瞬だけ
視線をマリンからミランに移します。
その間も銃はマリンに向けたままです。

立ち居振る舞いが戦闘になれた軍人そのもので
とてもリアル。
さらに肉親の情も感じさせて
アフロディアのキャラをはっきりさせています。


TVアフロディアの行動は軍人そのもの。
倒れてるのがミランじゃなかったらそのままスルーでマリンを銃殺してたんじゃないかと思います。
(ミランを殺したおかげで 命拾いの巻)

別に映画に比べてTVアフロディアのミランへの愛が足りないわけじゃないんですよ。
続くセリフ
「たった一人の弟を よくも・・・」「許さーん」
は感情的ですし シリーズ中度々「弟の仇」とマリンをつけ狙ってますから。
初動が違うだけなんですが キャラが決定的に違うのが分かるのではないかと思います。

映画は何と言うか普通ですよね。
入室する段階から「ミラン ミラン」と叫んでいて 現場指揮のミランを案じて駆け込んで来た様子です。
私も人の親ですが なんて言うかお母ちゃんみたいですよ、ここのアフロは。
周りの状況なんて知ったこっちゃないほど身内が優先、感情が優先。
いの一番に駆けつけたいし死んでると分かれば悲しい ただ悲しい。

映画バルディオスを恋愛ものと捕らえると
冒頭でアフロディアの女性としての美しさやストレートな感情を見せるのは合ってるのかもしれません。
いのまた作画で絵が本当に綺麗なので普通に見れちゃう・・・とも思います。
キャラの気持ちが分かりやすいと言う利点もあります。

TV版は入室する段階ですでに銃を構え警戒態勢。
「動くな」と警告 威嚇、現場に踏み込む軍人の態度です。

TV 映画共にそうなんですがアフロ率いる皇帝暗殺グループと
ミラン率いる研究所襲撃グループと二手に分かれて同時進行だったのだと思われます。
アフロは皇帝暗殺を終えて研究所の進捗を確認に来たと考えるのが自然です。

そこにミランが倒れている。
マリン親子の他に敵がいる可能性、反撃される可能性も想定すると救助メインにしても武装を崩せない。
キャラの感情は各自読み取ってくれ、と視聴者を子ども扱いしない画作りです。

TVのアフロディアはミランの死が悲しいのは事実だけどそれ以上に立場を弁えた軍人なんですね。
肉親の死と言う非常時でもこのような動きが取れてしまう。
敵に背中を向けたまま泣き崩れる・・・
そんな発想は無く、当たり前のように最適な第一行動が取れてしまうのがTVアフロディア。
ここが解ると哀れさが増します。
ここに至るまでの道のりが透けて見えてくるんです。

アフロディアの一連の芝居をつけたのはコンテの広川和之さんです。
参考リンク1 参考リンク2 コンテ該当シーンにリンク)
悲しい時に泣いたり悲しいと言えるならまだ救いがあるって事だと思います。
TVのアフロディアにはそれが出来ないし許されていない。
父親(レイガン博士)の死に涙するマリンと対照的とも言えます。

バルディオスはスーパーロボットに位置するアニメです。
毎回やられメカが出てきて最後は「覚えてろよー」「この仕返しは必ず」的な展開がお約束。
アフロディアも「バルディオスを倒せー」「殺せー」等
度々叫ぶ姿がバカっぽく映るんですがそれは敵の中ボスを演じる必要があるからで
本来は1話のキャラなんだと思います。

TV版は長丁場でロボットアニメ枠に徹している回も多く
作り出そうとしていたドラマの深さや意欲が全話において成功している訳ではないです。
でも この一見地味なセリフで説明しない画面作りはやっぱり凄いと
DVDを見返す度に思ってしまうのです。

1話のコンテは所有していて資料館でもアップしています。
資料館でも同じようなことを言ってるのですが鑑賞のお供にどーぞです。
次回はもう一度 1話のコンテについて触れたいと思います。

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(2021年11月)